2026-08-22 公開 / AI活用
AIに相談すると、前に却下した案が最優先で戻ってくる。決定を前提として渡していなかった
ある構成をどうするかAIに検討させたところ、返ってきた提案の第1候補が以前に理由をつけて却下した案でした。しかも「まずこれを検討すべき」という強い推し方です。AIの品質が悪いのではありません。却下したという事実を、こちらが渡していなかっただけでした。
なぜ却下済みの案が戻ってくるのか
理由ははっきりしています。その案は、前提を知らずに評価すれば実際にいちばん筋が良いからです。
だいたいの却下は、案そのものが劣っているから起きるのではありません。「その方針とは合わない」「以前に費用面で無理だと分かった」「試したが期待した効果が出なかった」といった、その場に固有の事情で落ちます。案の一般的な評価としては、依然として優秀なままです。
だからAIに「一般的にどれが良いか」を聞けば、当然その案が上位に来ます。毎回、同じ結論に到達します。そして毎回、こちらが「それは前に却下した」と説明することになります。
これは記憶の問題ではなく入力の問題です。会話の記憶が続く仕組みを使っていても、別の日に別の切り口で聞けば、同じ案が同じように出てきます。却下は、こちらの頭の中にしか無い情報だからです。
この「戻り」が高くつく理由
単に無駄というだけなら、読み飛ばせば済みます。実際に困るのは、次の2つでした。
1. 説明のコストが毎回かかる
戻ってきた案を却下し直すには、なぜ駄目なのかをもう一度説明する必要があります。しかも相手は筋の通った反論をしてくるので、こちらも筋の通った理由を並べ直すことになります。決着済みの議論を、決着済みだと知らない相手と、もう一度やるのは相当に消耗します。
2. こちらの判断が揺れる
もっと厄介なのはこちらです。何度も推されると、「もしかして却下したのが間違いだったのか」と思い始めます。実際には却下の理由は変わっていないのに、繰り返し提示されること自体が説得力のように働きます。
私は一度これで方針を戻しかけました。冷静に見れば、新しい情報は1つも出ていません。同じ案が違う言い方で出てきただけです。
直し方: 「決定事項」を入力に固定する
やったことは単純で、AIが必ず読む設定ファイルに、決定事項の節を作ったことです。書式はこう決めました。
## この判断は決着済み。蒸し返す前にここを読むこと
- 【決めたこと】どちらを採ったか
- 【いつ】決めた日
- 【却下した案】何を落としたか
- 【却下の理由】なぜ落としたか(一般論ではなく、この環境の事情として)
- 【再検討してよい条件】この前提が変わったら、もう一度考えてよい
最後の項目が効きました。「二度と提案するな」と書くと、本当に状況が変わったときにも黙られます。それは困ります。だから禁止ではなく、再開の条件を書く形にしました。条件が満たされていないうちは出てこないし、満たされたら出てきます。
「却下の理由」の書き方で結果が変わった
最初は却下の理由を短く書いていました。「費用が合わないため却下」のように。これだと弱くて、「費用を抑えた別形なら」という形で戻ってきます。結局また説明することになります。
効いたのは、その案が解こうとしている問題そのものを疑う形で書くことでした。実例を1つ挙げます。
あるとき「複数のAIを混ぜて意見を出させれば、偏りが減るのではないか」という案を検討して、落としました。落とした理由をこう書きました。
実際に起きた失敗は「渡した前提が間違っていた」のであって、「モデルが偏っていた」ではない。同じ間違った前提を別のモデルに渡せば、同じ結論が返ってくる。別のモデルは、誤った前提を訂正しない。治そうとしている病気が違う。
この書き方にしてから、この案は戻ってこなくなりました。「費用が合わない」は条件の話なので条件を変えた案が来ますが、「解こうとしている問題が違う」は前提の話なので、変え方が無いからです。
却下の理由は、案の欠点ではなく、案と問題の対応関係について書くと強くなります。
同じ形が、AI以外にも効いた
この節を作ってから、数か月後の自分にも効くことに気づきました。
別の記事にも書きましたが、私は過去に「危ないと分かっているコマンドを、上限を掛ければ安全だろう」と考えて実行し、本番を止めています。禁止だけが書いてあって、なぜ効かないかが書いていなかったからです。
今はその項目にも、同じ形で「既に試して駄目だった対策」まで書いてあります。禁止の理由を書かないと、禁止を回避する良いアイデアを思いつくのは、AIに限った話ではありませんでした。
ついでに直した、別種の「勝手に動く」問題
同じ時期に、これとは逆向きの調整もしました。ある補助的な仕組みが、特定の言い回しを検知して自動で起動する設定になっていたのです。
便利そうに見えて、実際には困りました。こちらが呼んだつもりの無いときに動き、限りのある実行枠を静かに消費します。そして枠を使い切るのは、たいてい何かの対応で急いでいるときでした。
自動で起動する条件を全部消して、明示的に名前を呼んだときだけ動くようにしました。あわせて「効果が無いと判断する基準」も書いておきました。何回続けて成果が無ければ畳む、という条件です。入れるときに畳む条件を書いておかないと、効いていない仕組みが惰性で残ります。
持ち帰れること
- 却下は、こちらの頭の中にしか無い情報。渡さなければ、同じ案が毎回いちばん良い案として戻ってきます
- 却下の理由は「案の欠点」ではなく「案と問題の対応関係」で書く。条件の話は条件を変えた案を呼びますが、前提の話には変え方がありません
- 禁止ではなく、再検討してよい条件を書く。「二度と言うな」だと、本当に状況が変わったときにも黙られます
- 繰り返し推されること自体が、説得力として働く。新しい情報が出ていないのに揺らいでいないか、意識して確認します
- 禁止の理由が無いと、禁止を回避する良い案を思いつく。これはAIでも自分でも同じです
- 自動で起動する仕組みは、畳む条件とセットで入れる。書かないと、効いていないまま惰性で残ります
この一連で分かったのは、AIに渡すべきは知識ではなく、決定の履歴だということでした。知識のほうは向こうのほうが持っています。持っていないのは、こちらが何を選ばなかったかだけです。